表紙



坊主小話





 ロイが宿営地のテントから出てくる。木陰でサウルがセシリアに声をかけるも、軽くあしらわれてしまう様子を黙って眺めている。

サウル
「おや、これはロイさま。みっともないところを見られてしまいましたね」

ロイ
「……サウル、ちょっといいかい?」

サウル
「はい、何でしょうか」

ロイ
「君は、軍の女性にに手当たり次第に声をかけているように見えるけど」

サウル
「それは大きな誤解です。この戦乱の時代に、聖女エリミーヌの存在が人々の救いになることを願っての行いです」

ロイ
「それで、ナンパに精を出すのは別にかまわないんだが」

サウル
「……」

ロイ
「わたしが思うに、手当たりしだいというわけではなく」

サウル
「……」

ロイ
「一応、年齢は考慮しているみたいだと思ってね」

サウル
「……流石はロイさま」

ロイ
「やっぱり。またどうして?」

サウル
「……あれは、いつのことだったでしょうか。神殿内で、泣いている子供を保護したことがあったのですよ」

ロイ
「意外と子供好きなんだね」

サウル
「……」

ロイ
「それで?」

サウル
「その子供は、どうやら母親とはぐれてしまったらしく」

ロイ
「一緒に母親を探したと?」

サウル
「その通りです。一刻ほど過ぎた頃でしょうか。人ごみに自分の名前を呼ぶ母親を見つけた子供は、繋いでいた手を振り切って、母親のもとに駆け寄りました。そこで、子供はことのあらましを説明し」

ロイ
「母親に感謝された。いい話じゃないか」

サウル
「母親は大声で叫びました。『サウルさま、うちの子に何したんですか!』」

ロイ
「……」

サウル
「一瞬、神殿内が沈黙に包まれました」

ロイ
「……」

サウル
「それから、色々ありましてね……。それ以後、未成年の女性には、布教でなくとも、なるべく声をかけなくなったのですよ」




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