表紙



遊牧小話





 軍の武器補給庫。

ウォルト
「あ、スーさん!」

スー
「ウォルトも矢の補給をしに来たの?」

ウォルト
「うん、このごろ戦いが激しくなって、矢がすぐになくなってしまうんだ」

スー
「そうね。風の中に混じる血の臭いもどんどん強くなっている…あら」

ウォルト
「どうしたの?」

スー
「シンだわ」

ウォルト
「シンさん?」

 少し離れた場所で、シンとツァイスが話している。ふたりには気付いていない。

スー
「珍しい」

ウォルト
「?」

スー
「シンは本当に必要なとき以外、あまり人と話さないから」

ウォルト
「そうなんだ……でも良かったね」

スー
「何が?」

ウォルト
「たわいのない話ができる友達がいるって、いいことだよ 。特に今は……そういう、ちょっとした気晴らしで、ずいぶん心が軽くなったりするから」

スー
「ええ、そうかもしれないわね」

ウォルト
「ところで……スーさんにひとつ聞きたいことがあるんだ」

スー
「わたしに答えられることなら」

ウォルト
「シンさんもそうだけど、どうしてサカの男の人はみんなバンダナを頭に巻いているの?」

スー
「掟よ」

ウォルト
「掟?」

スー
「あの布は、将来を共にすると決めた人の前でなければ取ってはならないの」

ウォルト
「じゃあ、もしうっかり誰かの目の前で布が取れてしまったら……」

スー
「その人と共に生きるのよ」

ウォルト
「大変な掟なんだね……あっ!」

ツァイスの槍の柄の先が引っかかって、シンのバンダナがはらりと落ちる。

ウォルト
「あの……………スーさん。シンさんが弓を構えて物凄い形相でツァイスさんを追いかけてるんだけど……もしかして」

スー (真面目に)
「サカの掟は絶対。シンは自分の運命を受け入れるしかないわね」

ウォルト
「シンさん……」

 ドラゴンに乗って必死に逃げるツァイスと、それを鬼気迫る表情で追うシンの姿が、次第に遠ざかっていく。




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