表紙



幸せさがし





 少女は指をさす。
「気持ちいい風! 見て、お花もうれしそうにゆれてるよ」
 少女は耳に手をあてる。
「ほら、あそこの木に、とってもきれいな鳥がとまってる。鈴みたいな声でうったてるね」
 少女は空を仰ぐ。
「今日はほんとにいいお天気。お日さまの光がぽかぽかして、心まであったかくなるみたい」
 その様子をみて、エルクは呆れたようにたずねた。
「きみは小さなことひとつひとつに、どうしてそんなに楽しそうに笑えるんだ?」
 ニノはほがらかにこたえた。
「エルクさん、あたしね、ほんの少しのしあわせで元気になれるんだ。だからね、いつでもいっぱい探せるようにしておくんだよ、ちっちゃいしあわせを。そうすれば、悲しいことがあっても、すぐ笑えるようになるでしょう?」
 そう言ってあどけなく笑う少女を見て、エルクは目を見張り、何か言おうと口を開きかけたが、ことばは甘い痛みとともに喉の奥をつまらせたので、外にでることはなかった。かわりにただ軽く頭をふり、ほほえんだ。
「ぼくもいっしょに探してもいいかな」
 それを聞くと、ニノの表情がぱっとかがいた。
「うん!」
 少年は思った。
 しあわせとは、たぶん、横をあるく少女のかたちをしているのだろうと。




表紙

inserted by FC2 system