表紙



理の子小話





カナス
「ほ、本が……あわわ!!!! アンブリエル、それは餌じゃないんだよ!! またそんなにおいしそうに……あ、口からはなしちゃだめだ! 下にいる人に当た……あぶない!」

エルク
「?! 何で空から本が……これは、闇魔道の……」

カナス
「す、すみません。お怪我はありませんでしたか」

エルク
「……いえ、大丈夫です。それより……」

カナス
「あの、たんこぶとか出来ていませんか」

エルク
「大丈夫です!……失礼ですが、カナス様でいらっしゃいますか」

カナス
「あ、はい。そうですが」

エルク
「ぼ……私は、エルクと申します。師から、あなたのお話をうかがっております」

カナス
「きみはもしかして、パント様の」

エルク
「はい、若輩ではございますが」

カナス
「それなら、僕も話はうかがっていますよ。優秀なお弟子さんだと」

エルク
「……そ、そうですか」

カナス
「それで……やっぱり痛みますか。顔が赤いようですね。すみません、今ライブをかけますから」

エルク
「大丈夫です!!……違う。少し落ち着こう。どうも調子が狂うな。……あの、日頃師から、一度あなたとお話してみるよう、強くすすめられておりまして」

カナス
「僕と、ですか?」

エルク
「はい。それに……失礼な物言いかもしれませんが、ぼ……私自身も、山の隠者の後継者であるあなたに興味がありました。師もいつも口にしています。理を知るには、同時に闇と光も知らねばならないと」

カナス
「はあ……しかし、僕の知識といっても、そんなにたいしたものでは……」

エルク
「そんなこと!」

カナス
「買いかぶりすぎですよ。実際、自分の知識が戦場にあっては人を殺す道具になることに、今でも慣れないし、怖いです、とてもね。学問としての魔法に、長く浸りすぎていたからかもしれませんけどね」

エルク
「でも、力がなければ、戦場では守れるものだって守れなくなるでしょう。そんなのはごめんです」

カナス
「……」

エルク
「僕は、パント先生から教えていただいた理の力と技を誇りに思います。破壊の力も、再生の力も、すべてを含めて」

カナス
「……きみはたしかに、優秀なお弟子さんのようだ。……?」

エルク
「どうなさいましたか」

カナス
「……急に風が強く……」

エルク
「あれは、飛竜?!」

カナス
「ア、アンブリエル!」

エルク
「こっちに向かって……僕の魔道書が……うわっ」

カナス
「これは餌じゃない、アンブリエル! やめなさい!! ああ……またそんなにおいしそうに……」




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