表紙



彼の罪





 ある港町に、ひとりの孤児がいた。彼はその地の領主に引き取られ、領主の息子とともに育てられた。若い主は少年を友と呼んだ。友と呼び、友に命じ、友に服従を求めた。
 彼は賢い少年であったから、このひどくいびつな関係の至るであろう場所を、時おり、海原の向こうに眺めていた。主のためを、そして自分のためを思えば、時には意見し、また拒絶することも必要であるだろうことは、わかっていた。
 けれど、わかったところで、何が変わるのだろうか。
 少年は目を逸らすことにした。その日々はあまりにも儚く脆く、あまりにも美しかったから。少年は目の前に散らばる色とりどりの玉のなかから、生まれて初めて、己の望むひとつを手に取った。ひとつを選び、別のひとつを選ばなかった。
 やおらスノウが振り向き、やや緊張した面持ちで言った。
「明日から、ぼくたちも正式に海上騎士団の一員だ。……改めて、よろしく頼むよ」
 少年は頷き、静かに微笑んだ。風の吹かぬ海はやがて澱む。いずれ来るその日まで、影のような幸福をいとおしく尊びながら、掌に罪を抱いて生きていく。




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