表紙



罪と罰





 無人島での夜。ヨンとシグルド、ハーヴェイ、そしてヘルムートの一行は、浜辺に寝床をこしらえ、昼間の戦いの疲れを癒していた。
 月が天の真上に来る頃、火の際でひとり寝ずの番を続けているハーヴェイの背後にそっと近づく影があった。
「時間だ」
 ヘルムートはそっけなく言うと、ハーヴェイの横に腰を下ろした。
「代わろう」
「悪いな」
「構わん」
 ハーヴェイはしかし、いつまで経っても腰を上げようとしない。
「眠らないのか」
「ああ。目が冴えちまってな」
「そうか」
 短く答えると、二人は再び沈黙した。静かな夜だった。規則的な潮騒に混じる、火の燃え立つ乾いた音のほかには、獣の鳴く声ひとつ聞こえない。ややあって、クールークの将校がぽつりとつぶやいた。
「皮肉なものだな」
 言いながら、穏やかな寝息をたてて眠る少年に視線を落とした。
「彼のような少年が、罰の紋章の宿主とは」
 その口調に、微かな自嘲が混じる。
「俺たちのほうがよほど、贖いの名に相応しいものを」
「そうか? 俺はわかる気がするけどな」
 それまで黙って焚き火をつついていたハーヴェイが、軽い調子で答えた。
「この紋章も、もうそろそろさ迷うのに疲れてきた、許されたかった、だからこいつを選んだんじゃねえのか」
 炎に照らされるハーヴェイの横顔を、ヘルムートは無言で見つめていた。
「俺もあんたも、人を許したいとも思わないし、自分が許されたいとも思わない。てめえの背負ったものは、地獄持ってくつもりだろ。違うのか」
 それを聞くヘルムートの表情が、わずかにほころんだ。
「……おい、何笑ってんだ?」
「貴様も、たまにはまともなことを言うと思ってな」
「あ? たまには、ってのはどういう意味だ?」
「さあな」
「あんたなあ……」
「早く寝ろ」
「おい!」
 波がやさしくざわめいた。夜は穏やかに更けていく。




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