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美青年攻撃誕生





 協力攻撃、それは戦士たちにとって、永遠の憧れ、特別な存在である。選ばれた者にだけ許された、艶やかに咲き誇る技の数々が、殺伐とした戦闘にひとときの華やぎを添えてくれる。
 だが、なかには例外もあった。クールークの若き士官は、シグルドおよびハーヴェイ両名との協力攻撃を習得してほしいという、軍主からの再三の頼みを、すげなく断っていた。理由は単純、ヘルムート曰く、「あんなものできるか!」だそうである。
 しかし、美青年攻撃(仮)は、これから先、激しさを増していくだろう戦いに備える上で、必要不可欠なものであった。
 ヨンは考えた末、大人が親睦を深めるためにもっとも手っ取り早い方法、すなわち「飲み会で親交を深めよう作戦」を決行した。うまい酒とつまみとを与え、三人を本拠地船の一室に放り込んだのである。
 はじめはヘルムートの怒声が扉の向こうからたたきつけられていたが、しばらく経つと、それはにぎやかな笑い声に変わった。ヨンは安堵の表情を浮かべ、美青年攻撃の成功を確信した。

 「飲み会で(略)」の次の朝、ヘルムートは目を覚まし、二日酔いの頭を抱えながら、億劫そうに上体を起こした。その瞬間、ヘルムートは声を失った。
「?!」
 素っ裸である。
「あ、何だ、もう起きたのか?」
「!」
 すぐ横で寝ていたハーヴェイも、吐く息に欠伸を交えながら起き上がった。やはり全裸である。
「昨日は凄かったな、シグルド」
「!!」
 すでに起きて身支度をすませているシグルドも、涼しい笑顔を朝日に照らしながら言った。
「ああ。まさかヘルムートがあんな……」
「!!!」

 以後、それまで石のように頑なであったヘルムートの態度が、目に見えて軟化しはじめた。
「……責任は、取らねばなるまい」
 固い表情のまま、ヘルムートは協力攻撃承諾の意をあらわした。
 シグルドとハーヴェイは互いの目を見合わせた。裸ネクタイでのひとり漫才は、責任を取る必要があるような、犯罪の一種か何かなのだろうか。しかしそれを口にするヘルムートの顔は暗く、青ざめている。文化の違うクールークでは漫才は罪なのかもしれないと、二人は納得した。
 こうして美青年攻撃は、ついに世に出ることとなったのだ。

 その夜、ヨンは密かにエレノアの部屋を訪ねた。うまくいきました、と軍師の耳にささやきながら、袖の下、すなわちカナカン産の酒を渡す。
「あの酒は口当たりはいいが、とんでもなく強いっていう代物でね」
 エレノアは杯を傾けながら、泣く子も黙りそうな、凄みのある笑みを浮かべた。
「ああいう男は、押して駄目なら引いてみるのが一番。弱みがないなら、作ればいいだけのことさ」
 彼女には決して逆らうまい。ヨンは心にかたく誓った。




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