ゆううつ士官
その士官は、いつもゆううつそうにしていたので、まわりからゆううつ士官と呼ばれていた。
ゆううつ士官はその赤みがかった銀色の髪をかきあげ、ぽつりとつぶやいた。
「はあ、ゆううつだな……」
ゆううつ士官は、いつもゆううつだった。
「ゆううつだ」
これがゆううつ士官の口ぐせだった。
ゆううつ士官の仲間は、ボケの切れ味なら本拠地船でいちばんといわれた海賊たちだった。
三人の協力攻撃は、みんながうらやんだ。でも、そんなすてきな美青年攻撃を編み出しても、好感度が上がって格好いい決めポーズができるようになっても、ゆううつ士官はいつもゆううつだった。
「ゆううつだ」
ゆううつ士官は口をひらくと、ゆううつだと言ってばかりだった。
「ヘルムート、ゆううつだ、ばかり言ってないで、メシにしよう」
ハーヴェイがゆううつ士官に声をかけた。
「今日の夕飯は、おまえのすきなサバの味噌煮だぜ」
それは、友を思うシグルドの手作りだった。
「なんとおいしいサバの味噌煮なのだろう」
ゆううつ士官は、仲間とばんごはんをたべていた。
「おかわりもあるからな。どんどん食べてくれ」
シグルドは元気にそう言った。
「父上は捕虜、トロイ様は苦境に立たされていらっしゃるというのに、こんなにおいしいものを、おれたちだけが食べていいのだろうか?」
ゆううつ士官は、ふとそんな風に考えた。
「そして、こんなにおいしいものを食べていられるのも、きっと今だけだ」
ゆううつ士官は、だんだんとゆううつになっていった。
「食事をとるのも、ゆううつだな」
ゆううつ士官は、ためいきをついた。
ばち――――――ん!
「いいかげんに、しやがれ!」
ハーヴェイはおこった!
「このおれに手をあげるなんて!」
ゆううつ士官はさめざめと泣いた。
「なんと、ゆううつなのだろうか!」
そうして泣きながら、ゆううつそうにごはんを食べるゆううつ士官であった。
「おまえは、なにがそんなにゆううつなんだ? もうトロイに会えないからか?」
ゆううつ士官の仲間たちは、なにかゆううつ士官をよろこばせるようなもの、特にトロイはいないかと、旅に出ることにした。
「ああ、やっとできた友までが、おれのもとをさってしまった!」
ゆううつ士官は、さめざめと泣いた。
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