表紙



わが青春の……





 ヨン、シグルド、ハーヴェイ、ヘルムート。出自も性格も身分も同じくするところのほとんどない四人であるが、共に過ごす時間を重ねるにつれ、次第に親しさを増していった。わかりやすく言うと、同じパーティで戦闘を繰り返すことにより好感度が上がったわけである。
 ある夜、火の側で武器の手入れをするヘルムートの姿を、横で黙って眺めていたヨンが、やおら口を開いた。トロイの話をしてほしい。
 やや離れた場所で話をしていたシグルドとハーヴェイも、それを聞くと、興味深そうに顔をあげた。
 ためらいの表情を見せたヘルムートに、ヨンは続けて言った。敵将の情報を欲しているのではない。あなたの目からみた、トロイという人間を教えてほしいのだ、と。
 しばしの沈黙ののち、ヘルムートは刃を磨く手を休めぬまま、静かに語りはじめた。
「初めて会ったのは、互いに少年の時分であった。あの方は、皇王の血筋に近しく連なる、さる高貴な家に生を受け……」

 四時間後。
 トロイ様士官学校編〜卒業試験に仕組まれた罠の章〜も、半ばにさしかかろうとしていた。
 眠気に勝てず、ガクガクと頭を揺らすハーヴェイの脇をシグルドが慌てて小突く。ヨンも心なしか目がうつろである。時おり、寝ぼけて饅頭にかぶりつく仕草をしている。
 だが、ヘルムートは自尊心の塊のような男であった。ここで「俺たちが悪かったです、もう勘弁してください」などと言おうものなら、険悪状態、すなわち頭上にハートブレイクは避けられない。これまで積み重ねてきた好感度が、一瞬にしてパアである。
「……というわけで、数々の妨害を乗り越えて、トロイ様は士官学校を主席でご卒業されたのだ。当然のことだが」
 トロイ様士官学校編〜卒業試験に仕組まれた罠の章〜が、ここで華麗に幕を閉じた。
 聴衆の顔に光がよみがえった。ついにこの苦しみから解放される時がきたのだ。うっすらと目に涙が浮かぶ。欠伸を我慢しているためである。
「だが、ここまでは序の口だ。あの方の素晴らしさを伝えるには、やはり実戦を語ることなくしてははじまらぬ」
 そう言うヘルムートの声と表情は、残酷なまでに生き生きと輝いていた。
 三人は無言で視線を交わしあい、互いを励ましあった。
 明けぬ夜はない。
 トロイ様初陣編第一部〜舞い踊れ優雅なる切り裂きの章〜は、まだはじまったばかりである。




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