表紙



理性の鎖を食いちぎり





 黒い髪に指を絡ませ、吐息まで貪るように口づける。
 シグルドは抵抗することもなく、相棒の荒い愛撫に従った。
 白兵戦のあとのハーヴェイは、いつもこうだ。気持が昂ぶるのはシグルドとて同じだが、彼の熱は戦いが終わってしまえば瞬く間に冷めてしまうのに対し、ハーヴェイは己のうちにたぎる衝動をもてあまし続ける。欲望を、理性という名の鎖で飼いならすことが出来ない。それを情欲の解放という形で、シグルドにぶつけてくるのだ。それでも、他の海賊に絡んで、小競り合いになるよりはずっとましだとシグルドは思った。
 ふいに、シグルドは眉を寄せた。ハーヴェイの濡れた熱い舌が、肌を這っていく。次から次へと雨のように浴びせられる、羽虫を夢中でいたぶる子どものように残酷で、無邪気で、しかし激しい行為。
 ハーヴェイはふだんから、どこか動物じみたところのある男であるが、戦いのあとの彼はほとんど、手負いの獣と言って良かった。
 嗅ぎなれた体臭に混じって流れる、潮の、それから血のにおい。
 懐かしい。
 そう感じてしまった自分に苦笑をこらえながら、シグルドはハーヴェイの重みを受け入れた。




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