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若き海賊の悩み





 昔々ある海に、天下の二枚目烈火のハーヴェイという、威勢の良い、若い海賊がいました。
「あんた、いつも幸せそうでいいわねえ」と酒場の女主人ルイーズに評されるほど、明るく陽気なハーヴェイでしたが、彼にも、一応、悩みらしきものがありました。
 ダリオが毎日のように雑用を押し付けてくるのです。炊事洗濯その他諸々、いくら海賊団での先輩とはいえ、もとより気の短いハーヴェイでしたので、もう我慢の限界でした。
 しかし、あるとき、ふとこんな考えが頭に浮かびました。
 そうだ、海賊としてはシグルドより自分のほうが先輩じゃないか。シグルドに用を言いつければいいんだ。
 早速、酒盛りの席で、ハーヴェイはこの名案を実行にうつしました。
「シグルド! 酒だ、酒もってこい!」
「わかった。ほら、ラムでいいか?」
「……」
「? 飲まないのか?」
「……あ、わ、わりいな」
 またあるとき、
「おい、シグルド! 足もみやがれ!」
「構わないが……どうした? さっきの戦闘で痛めたのか?」
「おう、ま、まあな……」
 どこかおかしい。何かが違う気がする。シグルドの指から放たれる見事な足もみの技に眠気を覚えながら、ハーヴェイは考えましたが、次の日にはすっかり忘れてしまいました。物事を深く考えすぎないのが彼のいいところでした。

「おい、ハーヴェイ! 早くこっちのテーブルも片付けやがれ!」
 いつものように怒鳴るダリオの横で、ナレオが困ったふうに言いました。
「パパ、掃除くらい、僕がやりますよ」
「馬鹿、ハーヴェイの野郎に嫌々やらせるから面白いんじゃねえか!……じゃねえ、こりゃ海賊流の教育ってやつだ!」
「教育、ですか? なら僕にも……」
「ハーヴェイ! おせえぞ! チンタラしてんな!」
 ダリオが言うと、律儀な怒鳴り声が遠くから返ってきました。
「うるせえ、今行く!」




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